仙台高等裁判所 平成5年(ラ)37号 決定 1993年5月12日
抗告人(被告)
東北電力株式会社
右代表者代表取締役
明間輝行
右訴訟代理人弁護士
杉山克彦
山本孝宏
宇田川昌敏
太田恒久
三島卓郎
中村健
大野藤一
相手方(原告)
阿部宗悦
同
阿部康則
同
阿部美紀子
同
阿部藍
右法定代理人親権者
阿部康則
阿部美紀子
相手方(原告)
小松弘
同
小松吉勝
同
鈴木隆義
同
平塚伝
同
阿部貞男
同
横山昭吾
同
志村孝治
同
相原広悦
同
廣瀬昌三
同
日下郁郎
右一四名訴訟代理人弁護士
吉田幸彦
鈴木宏一
松倉佳紀
松澤陽明
村上敏郎
武田貴志
馬場亨
角山正
斉藤睦男
舟木友比古
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一抗告人は「原決定のうち『被告は別紙目録記載の各文書を当裁判所に提出せよ。』との部分を取り消す。相手方の申立てのうち別紙目録記載の各文書の提出命令を求める部分を棄却する。」との裁判を求めた。
抗告の理由は別紙「抗告の理由」及び「記」と題する書面のとおりである。
二当裁判所も、抗告人には別紙目録記載の各文書(以下「本件各文書」という。)の提出義務があるものと判断する。その理由は、次のほかは、原決定の理由と同一であるからこれを引用する。
1 抗告の理由第一について
抗告人は、相手方らと抗告人との間には、民訴法三一二条三号後段所定の「法律関係」が存在しない、と主張する。
ところで、本件訴訟は、相手方らが抗告人に対し、抗告人が内閣総理大臣の許可に基づき宮城県牡鹿郡女川町に建設した原子力発電所並びに抗告人が通商産業大臣の許可に基づき同町に建設予定の原子炉について、原子炉施設の安全性が確保されないこと等を主張して、右原子力発電所の運転及び右原子炉の建設の差止めを求める訴訟である。
そして、原決定の理由(一五頁一〇行目から一七頁五行目まで)のとおり、相手方らは、本件原子炉施設の安全性が確保されないとき等に起こり得る災害によって直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域に居住する住民であるから、抗告人が原子炉の設置、運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は原子炉施設の安全が確保されないときは、その生命、身体等の権利に対する侵害を予防するため、抗告人に対し、本件原子炉施設の運転又は設置の差止めを求める権利を有する者であり、したがって、相手方らと抗告人との間には、右の法律関係があるというべきこととなる。
これについて抗告人は、右の関係は相手方らの本件原子炉施設に対する危惧、懸念に起因する具体性のない事実上の関係に過ぎず、未だ法律関係とはいい得ないと主張する。
しかしながら、記録によれば、相手方らは、本件原子炉について工学的側面と運転、保守、管理の側面から炉心溶融事故の発生する具体的危険性等をかなり具体的に主張していることが認められるから、右の関係が具体性のない事実上の関係に過ぎないものということはできない。
2 抗告の理由第二について
抗告人は、証すべき事実について明確性を欠くときは、民訴法三一六条の文書不提出の効果を特定することができず、文書所持者に命令を応諾するか否かにつき極めて困難で過酷な判断を強いることとなり、このような文書提出命令の申立ては、文書所持者と挙証者との利益の調和を根幹とする文書提出命令制度の趣旨を没却するものであって違法である旨主張する。
しかしながら、同条によって真実と認められることのある「相手方ノ主張」とは、文書によって「証スヘキ事実」に関する主張をいうものではなく、文書の記載内容についての主張をいうものと解されるから、たとえ「証スヘキ事実」の表示が概括的なものであったとしても、これをもって「相手方ノ主張」が不明確であるということはできない。
また、文書不提出の効果を定めた民訴法三一六条の規定は、文書提出命令に従わない当事者に対し、提出義務の履行を間接的に強制するための制裁規定であって、文書提出命令を受けた当事者に対し、文書不提出の効果を甘受すれば文書提出命令に従うことを要しないとする趣旨の規定ではないと解される。
そうすると、文書提出命令が確定したときは、命令を受けた当事者は、命令に従って文書を提出すべき義務を負い、同条を根拠として命令を拒否することはできないものというべきであるから、命令を受けた文書の所持者に命令を拒否する権利があることを理由として、右のような文書提出命令の申立てが違法であるということはできない。
以上のとおりであるから、抗告人の右の主張は採用することができない。
3 抗告の理由第三について
(一) 抗告人は、本件各文書は民訴法三一二条三号後段のいわゆる法律関係文書に当たらない、と主張する。
しかしながら、原決定の理由(二〇頁二行目から二六頁一〇行目まで)のとおり、別紙目録記載1の文書(以下「本件1の文書」という。)及び同2の文書(以下「本件2の文書」という。)はいずれも本件原子炉施設についての抗告人の保安管理体制が、また、同3の文書(以下「本件3の文書」という。)は本件原子炉施設の位置、構造及び設備が、それぞれ原子炉施設の周辺住民等の生命、身体に対し重大な危害を及ぼすおそれのあるものでないことを明らかにすることをも、その目的の一つとして作成されたものであって、いずれも自己の生命、身体等に対し重大な危害が及ぶおそれがあることを理由として本件原子炉の運転差止めを求めるという相手方らの請求にとって、その構成要件の一部に該当する事実について作成されたものとみられるから、本件各文書は、いずれも右の法律関係文書に当たる、というべきである。
これに対し、抗告人は、本件各文書は専ら公共の安全という公益の実現を図るために行政上の観点から作成を義務づけられているものであって、私人間の権利、法律関係について、その構成要件の全部又は一部を明らかにすることを目的として作成されたものではない、と主張する。
しかしながら、原子炉の設置の許可の基準を定めた核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律二四条一項三、四号は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般的法益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、原子炉の事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むと解されており(最高裁平成四年九月二二日判決・民集四六巻六号五七一頁)、このことは、保安規定の認可の基準を定めた同法三七条二項の趣旨についても同様であると解される。
そうすると、同法三七条一項の規定に基づいて作成された本件1の文書は、一般的公益の保護を目的とする行政上の観点からのみ作成されたものではなく、本件原子炉施設についての抗告人の保安体制が、本件原子炉施設の周辺住民個々人の生命、身体に対し重大な危害を及ぼすおそれのないものであることを明らかにすることをも目的の一つとして作成されたものであるというべきである。
同様に、電気事業の許可の基準を定めた電気事業法五条四号、電気工作物の設置、変更工事計画の認可の基準を定めた同法四一条三項及び保安規定について通商産業大臣の審査及び変更命令の権限を定めた同法五二条三項もまた、電気工作物の安全が確保されないときは、事故により周辺住民等の生命、身体等に重大な危害を及ぼす等の深刻な災害を引き起こすおそれがあることにかんがみ、当該電気工作物周辺に居住し、電気工作物の事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むものと解される。
そして、本件女川原子力発電所一号機及び二号機が右の通商産業省令(電気事業法施行規則三一条)で定める電気工作物に当たることは明らかである。
そうすると、同法五二条に基づいて作成された本件2の文書及び同法四一条等に基づいて作成された本件3の文書は、いずれも、一般的公益の保護を目的とする行政上の観点からのみ作成されたものではなく、本件原子炉施設についての抗告人の保安体制及び右一号機及び二号機の設置、変更工事が、右一号機及び二号機の周辺住民個々人の生命、身体に対し重大な危害を及ぼすおそれのないものであることを明らかにすることをも目的の一つとして作成されたものであるというべきである。
したがって、抗告人の右の主張は採用することができない。
(二) 抗告人は、別紙目録記載3の文書は、文書提出命令の必要性がない、と主張する。
しかしながら、一般に、証拠調べの必要性があるかどうかは、受訴裁判所が当該事案の内容や訴訟の進行程度等の事情を考慮して専権的に判断すべきものであることから、証拠の申出の採否の裁判に対し、証拠調べの必要性の有無を理由として即時抗告の申立てをすることは許されないものであるところ、文書提出命令の申立てもまた証拠申出の一方法であるから、その採否の裁判に対しては、証拠調べの必要性の有無を理由として即時抗告の申立てをすることができず、民訴法三一五条による即時抗告の申立てができるのは、同法三一二条の文書提出義務の有無を理由とする場合に限られるものと解される。
したがって、抗告人の右の主張は採用することができない。
4 守秘義務について
抗告人は、本件各文書には企業機密に属する事項が含まれているから、抗告人には、民訴法二八一条の規定の類推適用により、本件各文書について提出拒絶権がある旨主張する。
一般に、文書提出義務は、裁判の審理に協力すべき公法上の義務であり、証言義務と同様の性格を有するものであるから、文書所持者についても、技術又は職業上の秘密に当たる事項についての証言拒絶権を定めた民訴法二八一条の規定の類推適用があると解される。
しかしながら、右の拒絶権は訴訟における真実の発見の要請を犠牲にするものであって、いわば例外的に認められるものであるから、技術又は職業上の秘密に当たる事項であるからといって、そのすべてについて拒絶権が認められるわけではなく、保護に値する秘密だけが拒絶の対象となるべきものであり、また、その事項が保護に値するかどうかは、秘密が公表されることによって秘密保持者が受ける不利益と、拒絶によって具体的訴訟が受ける真実発見と裁判の公正についての不利益とを比較衡量して判断すべきものと解される。
これを本件についてみると、当審における抗告人の疎明によれば、抗告人と本件原子炉の製造依頼を受けた株式会社東芝との間には、商業機密を第三者に漏洩又は開示しないとする覚書による合意があり、本件3の文書には右合意に基づき東芝が指定した商業機密に当たる部分が含まれていることが認められる。
他方、前記3(一)のとおり、本件3の文書は、抗告人が電気事業法四一条の認可を受けるために通商産業大臣に提出した文書であって、提出先が政府機関とはいえ、いったんは外部に提出された文書である。
また、本件訴訟は、本件女川原子力発電所一号機及び二号機の安全性の有無を争点とする訴訟であるが、前記3(一)のとおり、本件3の文書は、抗告人が、右一号機及び二号機の設置、変更工事等が周辺住民個々人の生命、身体に対し重大な危害を及ぼすおそれのないものであることをも明らかにし、これによって同条の認可を受けることを目的として作成されたものであるから、その記載内容は、本件訴訟における真実の発見の要請に適うことが予想されるものである。
更に、自己の計画する事業が安全であることを示す内容の資料を提出して事業の認可を受けた企業が、その後、右の事業によって自己の権利が侵害されると主張して第三者が提起した事業の差止請求訴訟において、企業の秘密を理由として右の資料の提出を拒否することは、公平の原則ないし信義則に照らし、相当であるとはいいがたい。
そうすると、これらの事情を総合して、秘密が公表されることによって抗告人ないし東芝が受ける不利益と、拒絶によって本件訴訟が受ける真実発見と裁判の公正についての不利益とを比較衡量すれば、本件において抗告人が企業秘密に当たると主張する事項は、未だ文書提出命令拒絶の対象となるべき保護に値する秘密には該当しないものというべきである。
したがって、抗告人の右の主張は採用することができない。
三そして、記録上、原決定を取り消すべき違法事由は見当たらない。
以上のとおりであるから、原決定は相当であり、本件抗告は理由がない。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官石川良雄 裁判官山口忍 裁判官荒井純哉)
別紙目録
1 東北電力株式会社女川原子力発電所一号機(以下「一号機」という。)について核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律三七条に基づき抗告人が通商産業大臣に申請し同大臣が認可した保安規定又はその写し
2 一号機について電気事業法五二条に基づき抗告人が通商産業大臣に届け出た保安規定又はその写し
3 一号機及び東北電力株式会社女川原子力発電所二号機(以下「二号機」という。)について電気事業法四一条に基づき抗告人が通商産業大臣に提出した工事計画認可申請書、工事計画変更認可申請書、工事計画軽微変更届出書及び特殊設計施設認可申請書並びに各添付資料のうち、一号機及び二号機の各格納容器内部の構造、材質、寸法、取付方法及び強度計算について記載した部分の控え又は写し
別紙抗告の理由
第一 法律関係の不存在について
抗告人(被告)が原審において平成三年三月八日付意見書の二、(二)で述べたとおり、文書提出命令申立に係る文書が民事訴訟法第三一二条第三号後段の文書に該当するには、相手方(原告)らと抗告人(被告)との間に同条に定める「法律関係」が存在しなければならないところ、文書提出命令を求める者が当該訴訟に関しいかなる「法律関係」を有し、その要件事実と右文書とがいかなる関係を有するかを具体的に、すなわち右文書の記載内容のいかなる部分が、その「法律関係」のいかなる要件事実の発生を基礎づけるかを主張する必要があることは異論のないところであり、裁判所がこの申立てを認めて文書の提出を命じるときも、このような具体的関連を示す必要がある。
しかるに、原決定は「理由」の「第二 当裁判所の判断」と題する部分(以下、「判断部分」という。)の四において、本件各文書の民事訴訟法三一二条三号後段該当の有無について、「本件原子炉は発電の用に供する原子炉であり(規制法二三条一項一号)、その電気出力は約五二万四〇〇〇キロワットであって、炉心の燃料としてはウランが用いられ、炉心内において毒性の強い核分裂育成物とプルトニウムが生じることは記録上明らかであって、かかる事実に照らすと、原告らは、被告が原子炉の設置・運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は本件原子炉施設の安全性が確保されないとき等に起こり得る事故等による災害により、直接的かつ重大な被害を受けるものと想定される地域内に居住する者というべきである。したがって、原告らには、被告による本件原子炉の設置・運転により、被告が原子炉の設置・運転につき所定の技術的能力を欠くとき、又は本件原子炉施設の安全性が確保されないとき等においては、本件原子力発電所の運転差止めを求める請求権が発生するというべきであり、原告らとの間には、右の意味において、民訴法三一二条三号後段所定の法律関係が存するというべきである」と述べている(決定書一六〜一七頁)。
しかしながら、原決定の判示するところははなはだ抽象的な漠然とした事実上の関係であり、これをもって具体的「法律関係」があるとはいえない。
相手方(原告)らの本案におけるこれまでの主張によっても「人格権、環境権に対する違法な侵害の可能性が大であること(相当程度の高度な蓋然性と具体性があること)」(原告準備書面(一))を示す具体的な主張は何らなされていない(相手方(原告)らは本件原子力発電所についての事故発生の蓋然性等について言及しているけれども、本件原子力発電所のいかなる部分に欠陥があり、あるいは運転管理面のいかなる点に危険があるのか、といったことを特定し、事故発生の蓋然性の程度に結びつけて具体的な主張を行っていない)。
したがって、右の「法律関係」と原決定が称しているものは、相手方(原告)らの本件原子力発電所に対する危惧、懸念に起因する具体性のない事実上の関係に過ぎず、未だ「法律関係」とはいい得ないものである。
東京高裁昭和四七年五月二二日決定(判例時報六六八号)は、原子炉の撤去を請求する訴訟における文書提出命令の申立について、「本件文書には前記装置の設置許可申請を所管庁(内閣総理大臣)に対し提出するに当り、法規に定められた所要事項が記載され、その記載には右装置付近住民である本件相手方らとの関係において、同住民らの身体、生命、居住の安全性に関する事項が含まれていることは関係法令の諸規定上明らかであり、右安全性に関する事項は相手方ら本件本案訴訟において保護を求めている人格権、所有権、占有権等に対する侵害可能性の有無にかかわりのあり得ることであるから、右事項を右装置の設置者である抗告人と相手方らとの法律関係であると広義に解する余地がないわけではない。しかし、右安全性の有無、または侵害可能性の有無に関する事項はこれを相手方らの主張のとおりに解しても具体性のない事実上の関係であって、未だ法的な関係となる以前のものである。」と判示しているが、本件申立についても同様といわざるを得ない。
抗告人(被告)が原審における平成三年三月八日付意見書の二、(一)で述べたとおり、民事訴訟法第三一二条による文書提出命令の制度が、対立する両当事者間の利益の調和をはかるために法が一定の要件を課したものであることにかんがみれば、本件のように単なる事実上の関係あるいは単に両当事者間に訴訟が係属しているに過ぎない関係をもってして提出義務の原因となるべき「法律関係」であるとすることは、同条の解釈としては到底許されないものといわざるを得ない。すなわち、「民訴法三一二条三号後段にいう『法律関係』をもって、当事者間のあらゆる法律的関係に関して何等かの意味で関係のあるもの一般を指称するものと解すると、挙証者が、文書の所持者を相手方として訴訟を提起している場合には、当該訴訟で挙証者が文書所持者に対して主張している権利が認められるか否かという法律関係が両者間に必ず存在することになるから、当該文書に挙証者に利害関係のあることが記載されていれば、それだけで、挙証者は常にその提出を求め得ることになり、およそ現行民訴法が予定しているところと異なる結果を生ぜしめることにな」る(大阪高裁昭和五四年九月五日決定・判例時報九四九号六七頁、同旨、東京高裁昭和五八年九月九日決定・訟務月報三〇巻三号五三五頁)のであり、実質的に一般的文書提出義務を認めるのと変わらないこととなり、文書提出義務を特別かつ限定的な義務とする現行法の趣旨(菊井・村松前掲六一〇頁、兼子一条解民事訴訟法上七九三頁、斎藤前掲一九二頁等)とはかけ離れたものになってしまうのである(同旨、時岡泰「文書提出命令の範囲」民事訴訟法の争点二三三頁)。
したがって、原告らと被告との間には民事訴訟法三一二条三号後段に規定する「法律関係」はそもそも存しないというべきであり、この意味において原決定は失当であるといわざるを得ない。
第二 民事訴訟法第三一六条について
本件文書提出命令の申立が「証すべき事実」について明確性を欠き不適法であることは原審における平成三年三月八日付意見書の一、(一)記載のとおりであるが、原決定は、その点について「(民事訴訟法)三一六条の適用については、同条によって真実と認め得る原告の主張とは、その文書によって立証しようとする事実についての主張ではなく、提出すべき文書の性質、内容についての主張であるから、文書の趣旨及び証すべき事実の記載が概略的なものであって、提出すべき文書の性質、内容についての具体的主張に乏しい場合には、右規定の適用によって必ずしも要証事実の認定に資する結果を得られないこととなるにすぎないのであって、同法三一六条の適用による実益が十分に生じないからといって、『文書ノ趣旨』及び『証スヘキ事実』の表示が不適法なものということはできない」と述べている(決定書三一〜三二頁)。
しかし、「証すべき事実」についての明確性の有無、ひいては民事訴訟法第三一六条の適用の有無を明確にしないまま、文書の提出を命ずることは、民事訴訟法第三一六条の規定との関連で、文書不提出の効果を特定することができず、文書所持者に命令を応諾するか否かにつき極めて困難で過酷な判断を強いることになるから、その点において原決定は、挙証者と文書所持者の利益の調和を根幹とする文書提出命令制度の趣旨を没却するもので違法たるを免れないと思料される。
第三 原決定添付別紙目録記載の各文書について
一 保安規定について
原決定は、保安規定に関し、判断部分の四において、右文書の作成と法律関係との関連性について、「右文書は、本件原子炉施設についての被告の保安管理体制が、原子炉施設の周辺住民等の生命、身体に対し重大な危害を及ぼすおそれのあるものでないことを明らかとすることも、その目的の一つとして作成されたものというべきである」としたうえで、「右文書は、民訴法三一二条三号後段の文書に該当するものというべきである」と述べている(決定書二一〜二二頁)。
しかしながら、右文書は、専ら公共の安全という公益の実現を図るために行政上の観点から作成を義務づけられているものであって、私人間の権利、法律関係について、その構成要件の全部又は一部を明らかにすることを目的として作成されたものではないので、右文書は「法律関係文書」ではなく民事訴訟法第三一二条三号後段の文書に該当しないというべきである。
二 保安規程について
原決定は、保安規程に関し、判断部分の四において、右文書の作成と法律関係との関連性について、「本件原子炉施設についての被告の保安管理体制が、原子炉施設の周辺住民等の生命、身体に対し重大な危害を及ぼすおそれのあるものでないことを明らかにすることも、その目的の一つとして作成されたものというべきである」としたうえで、「右文書もまた、民訴法三一二条三号後段の文書に該当するものというべきである」と述べている(決定書二三〜二四頁)。
しかしながら、右文書もまた、専ら公共の安全という公益の実現を図るために行政上の観点から作成を義務づけられているものであって、私人間の権利、法律関係について、構成要件の全部又は一部を明らかにすることを目的として作成されたものではないので、右文書は「法律関係文書」ではなく民事訴訟法第三一二条三号後段の文書に該当しないというべきである。
三 工事計画認可申請書等について
1 原決定は、別紙目録3記載の各文書に関し、右各文書の作成と法律関係との関連性について、「右文書は、本件原子炉施設の位置、構造及び設備が、原子炉施設の周辺住民等の生命、身体に対し重大な危害を及ぼすおそれのあるものでないことを明かとすることも、その目的の一つとして作成されたものというべきである」とし、「右文書中には、炉心の構造、燃料の種類、反射材の種類、組成及び主要寸法、熱遮蔽材の種類及び構造、圧力容器の種類、最高使用圧力、最高使用温度、主要寸法及び材料等、発電所全体の膨大な設備及び機器に関する設計の詳細が記載されて」おり、「これらの記載は、被告が原子炉の設置・運転につき所定の技術的能力を欠くこと、又は本件原子炉施設の安全性が確保されないことにより、原告らの生命、身体等に対し重大な危害が及ぶおそれがあることを理由として、本件原子力発電所の運転差止めを求めるという原告らの請求にとって、その構成要件事実の一部に該当するということができる」と述べている(決定書二五〜二六頁)。
2 しかしながら、右文書は、専ら公共の安全という公益の実現を図るために行政上の観点から作成を義務づけられているものであって、私人間の権利、法律関係について、構成要件の全部又は一部を明らかにすることを目的として作成されたものではないので、「法律関係文書」ではなく、民事訴訟法第三一二条三号後段の文書に当たらない。
このことは、電気事業法の立法目的について「『電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによって、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図る』旨の公益の実現にあり(法一条)、電気工作物に基因する事故による附近住民の利益を保護することを主たる目的とするものとは解しえないから、法四八条二項一号の人体への危害と物件の損傷防止も公益の保護を通じて国民一般が受ける利益にすぎず、個々の国民の具体的な利益を保護する趣旨ではないというべきである。そうすると法四一条の認可は公益の実現を目的とするものといわなければならない。ちなみに、法四八条に基づき定められた発電用火力設備に関する技術基準を定める省令その他の省令をみても、右技術基準が特別に附近住民の利益を個別的に保護する趣旨のものであることを窺わせるような規定はない」(東京地方裁判所昭和五九年六月一三日判決・判例時報一一三八号七一頁)とされていることからも明らかである。
3 また、相手方(原告)らが本件文書提出命令申立書の「文書の趣旨」に記載している構造、材質、寸法については、設置許可申請書にもその概略が記載されているところ、右申請書は公開されており、本件訴訟においても<書証番号略>等すでに証拠として提出されているものである。
一方、工事計画認可申請書等には、例えば原子炉本体のうち圧力容器についていえば、圧力容器の種類、最高使用圧力、最高使用温度、主要寸法・材料、構造図、強度計算書等、発電所全体の膨大な設備・機器に関する設計の詳細が記載されている(電気事業法施行規則別表第三参照)のであり、工事計画の内容について専門的かつ多岐にわたって記載された極めて大部のものであるところ、原告ら記載の「証すべき事実」が概括的・抽象的であることや、原告らが「文書の趣旨」として記載している事項が原告らの主張とどのように結びつくのか何ら明確になっていないことを考えあわせれば、本件申立において原告らの意図するところが単なる資料収集に過ぎず、漠然と主張の手がかりを探し出そうとするものであることは明白である。
すなわち、仮に右文書に原告ら主張の事実が記載されており、これによりその事実が立証されたとしても、右事実がどのように原告らの環境権及び人格権侵害のおそれに関連するのか、その点が不明確であるといわなければならない。
したがって、右文書は、原告・被告間の個別的かつ具体的な法律関係それ自体、または、右法律関係と密接に関連する事項を記載した文書とは認め難いから、「法律関係文書」には該当しない。
4(1) さらに又、原決定は、「原告において明らかにしようとする文書の内容は、当該文書のうち、本件原子力発電所一号機又は二号機の各部分の構造、材質、寸法について記載されている部分中に、圧力容器底部等にSUS三〇四が使用されている記載、圧力容器にひび割れを起こしやすい設計構造又は材料の使用がされている記載、格納容器の下部に、再循環ポンプ、再循環系配管、制御棒駆動機構、インコアモニター系配管、配線、ほう酸水注入系配管、給水系配管、主蒸気系配管、これらの隔離弁、自動逃がし弁系配管等圧力容器内につながる配管及び配線が集中している記載が存することであると認められる」と述べている(決定書二九頁)。
(2) 右のうち、「圧力容器底部等にSUS三〇四が使用されている記載」は、相手方(原告)らの立証趣旨との関係では圧力容器底部のインコアモニターハウジング(中性子束モニターハウジング)の応力腐食割れに関連していると考えられる(平成三年九月三日付田中三彦証人調書一三丁裏)。
しかしながら、本件電子力発電所では応力腐食割れ対策として、過去の事例を十分に検討し、対策が必要と考えられる部分は全て、割れ感受性の低い低炭素ステンレス鋼(SUS三一六L等)を採用するとともに溶接施工にあたっても残留応力低減の観点から厳重な入熱管理を行っており(<書証番号略>)、当該箇所においてはSUS三一六Lを用いている。
ちなみに、抗告人(被告)会社は、応力腐食割れについては溶接方法と材料の両面で対策を講じている(平成四年三月一〇日付高木秀夫証人調書一〇丁表・裏)ところ、工事計画認可申請書の記載事項が電気事業法施行規則第三二条に基づき同施行規則の別表第三の中欄、下欄に示されている(電力新報社刊「九二年版原子力実務六法」一九九二年一〇月二〇日発行・八三五〜八三七頁参照)が、同別表第三では、溶接方法の記載はないため、工事計画認可申請書等によって確認することはできない。
(3) 又、「圧力容器の設計構造または材料の使用がされている記載」は、相手方(原告)らの立証趣旨との関係では、本件圧力容器のアンダークラッドクラッキング(以下、「UCC」という。)による圧力容器からの放射性物質の流出事故に関連していると考えられる。
しかしながら、相手方(原告)ら提出に係る<書証番号略>二三頁に「UCCが出たからといって、破壊力学的に成長する欠陥であるかどうかは、当時、西ドイツで解析されて、成長性がないことが明らかにされた」と記載されているとおり、微細なひび割れが拡大して放射性物質が漏洩することがないことは明らかである。
したがって、右文書を提出したからといって右部分について相手方(原告)らの立証に何ら資するものではない。
ちなみに、右UCCを防ぐ方法としては、基本的には材料と溶接方法の二つがある(平成三年九月三日付田中三彦証人調書三七丁表・裏)ところ、前述のとおり工事計画認可申請書等では溶接方法に関する記載はないのであり、右文書によって本件圧力容器でのUCCの発生の可能性を判断することはできない。
なお、本件原子力発電所では、UCC感受性のない材料の使用や低入熱溶接方法等の採用により、十分な対策が講じられているため、UCCが発生する可能性がないことは明らかである(<書証番号略>四八頁)。
(4) さらに又、「格納容器の下部に、再循環ポンプ、再循環系配管、制御棒駆動機構、インコアモニター系配管、配線、ほう酸水注入系配管、給水系配管、主蒸気系配管、これらの隔離弁、自動逃がし弁系配管等圧力容器内につながる配管及び配線が存在する記載」は、相手方(原告)らの立証趣旨との関係からいえば、再循環系配管の大破断時に破断口から噴出する高温高圧水のため右機器、配管、配線に二次破断が生じるかどうか、に関連するものと考えられる。
しかしながら、相手方(原告)らのいう機器等が存在する事実は、抗告人(被告)において争わない事実であり、争わない事実についての文書提出命令は必要性がない。また、二次破断が生じるかどうかは評価の問題であるから、文書提出命令にはなじまない。
5 したがって、右各文書は、相手方(原告)らの主張する構成要件の全部又は一部を明らかにするものではないので「法律関係文書」ではなく、民事訴訟法三一二条三号後段の文書に当たらないものである。
第四 仍って、原決定は、取消しを免れず、相手方(原告)らの本件申立は却下を免れないものである。
記
一(一) 抗告人の本件抗告の理由は、平成五年三月一九日付抗告状で述べたとおりであるが、企業機密部分に関して補足すると、女川原子力発電所一号機を建設するにあたり、抗告人と製造を依頼した訴外東京芝浦電気株式会社(現在株式会社東芝、以下「東芝」という。)の間には、企業機密に関し、右東芝の同意なしには第三者に漏洩または開示できないとする別添一の昭和五〇年六月五日付覚書が存し、右覚書に基づき具体的企業機密内容を掲示した別添二の昭和五〇年六月一二日付文書(商業機密として指定する情報について)が定められている。
右文書において、商業機密(企業機密)に属するものとして、
1 東芝の技術開発、研究開発の内容および成果で東芝の財産に属する情報、
2 海外からの導入技術で技術導入契約上、秘密保持の義務のある技術情報、
3 特定の社外者との共同研究契約に基づく共同研究の内容および成果で秘密保持の義務のある技術情報、
4 特許出願予定の技術情報、
5 価格、生産能力、研究開発計画など東芝のプライバシーに属する情報、
6 その第三者への開示が競争会社を有利とし、あるいは東芝に不利益をもたらすおそれのある情報、
7 東芝の情報ではないが顧客、下請業者等との契約または協定によって秘密として取扱わねばならない情報
が指定されているところ、抗告人は、右文書に基づき秘密主体である東芝の合意が得られない場合は、文書の提出を差し控えざるを得ないものである。
(二) 別添三に示すとおり東芝の見解によれば、原決定で提出を命じられた原決定別紙目録3の文書、すなわち「東北電力株式会社女川原子力発電所一号機及び二号機について電気事業法四一条に基づき被告が通商産業大臣に提出した工事計画認可申請書、工事計画変更認可申請書、工事計画軽微変更届出書及び特殊設計施設認可申請書並びに各添付資料のうち、一号機及び二号機の各格納容器内部の構造、材質、寸法、取付方法及び強度計算について記載した部分」には、
①設計根拠、経験値、特殊材料の選定、特殊な製作手順に関する部分、
②原子炉圧力容器等の強度および応力評価に関して独自に研究開発した解析コードに関する部分、
③開発成果、実験式に関する部分、
④ゼネラル・エレクトリック社(GE社)等との技術提携に基づき未公開とされている事項に関する部分、
⑤協力会社指定の営業秘密に関する部分
等が含まれているおそれがあるとし、
そのより具体的な例として、給水ノズル部(原子炉圧力容器と配管との接合部分…一号機では、第2回申請の「Ⅲ説明書および計算書」の中の「3原子炉圧力容器強度計算書」の「3―9給水ノズル(N4)の応力計算書」に記載、二号機では、第5回申請の「Ⅳ―3強度計算書」の中の「Ⅳ―3―1原子炉本体の強度計算書」の「Ⅳ―3―1―1原子炉圧力容器の強度計算書」の「Ⅳ―3―1―1―11給水ノズル(N4)応力計算書」に記載)をあげれば、
a その構造、すなわちノズル部の形状は、右(一)1、3、6、7に該当するものであり、
b その寸法、すなわち最小板厚は、右(一)5、6、7に該当するものであり、
c その強度計算、すなわち右ノズル部の応力評価のために運転条件(温度、圧力、流量等)を変動させて得られた対応値は、右(一)1、2、6、7に該当するものである
としているのである。
したがって、抗告人としては、右文書についての公開を差し控えざるを得ないものである。
二 また、不正競争防止法第一条第三項(平成二年六月二九日改正)が、営業秘密の定義につき「秘密トシテ管理セラルル生産方法、販売方法其ノ他ノ事業活動ニ有用ナル技術上又ハ営業上ノ情報ニシテ公然知ラレザルモノ」と規定し、さらに「其ノ営業秘密ニ係ル不正行為ニ因リテ営業上ノ利益ヲ害セラルル虞アルトキハ其ノ営業秘密ニ係ル不正行為ノ停止又ハ予防ヲ請求スルコトヲ得」として営業秘密を保護しているところ、右文書の内容は右法条に定めるところの営業秘密の対象となるべきものである。
三 よって、企業機密を含む右文書の提出を認めた原決定は取消され、あらためて相手方の申立てを却下する決定がなされるべきである。
別添一 覚書
東北電力株式会社(以下「甲」という。)と東京芝浦電気株式会社(以下「乙」という。)とは、昭和四三年三月一六日甲乙間で締結した「原子力発電所についての共同研究に関する契約」ならびに甲の原子力発電所の計画に対するその後の乙の協力に際しそのProprietary Information(以下「商業機密」という。)については、第三者に漏洩または開示しない旨を約していたが、このたび本約定を明確にするため下記の通り覚書を締結する。
記
1 上記契約に伴ない知り得た情報のうち、甲または乙が商業機密と指定するものについては、甲または乙(甲または乙の下請業者を含む)は相手方の承認なしに第三者に漏洩または開示しないものとする。ただし、法令に基づく許認可取得のために使用する場合は、この限りではない。
2 甲ならびに乙は前項ただし書の場合に商業機密が政府当局により開示されないよう努力するものとする。
3 本覚書の効力は覚書締結の日から発効するものとする。
4 商業機密の消滅については甲・乙協議の上決定するものとする。
本覚書の証として本書二通を作成し甲・乙各々その一通を保有する。
昭和五〇年六月五日
甲 東北電力株式会社
取締役社長若林彊
乙 東京芝浦電気株式会社
取締役社長玉置敬三
別添二
昭和五〇年六月一二日
東北電力株式会社
資材部長 重巣孝良 殿
東京芝浦電気株式会社
東北支社長山下勝
商業機密として指定する情報について
拝啓 貴社益々御清栄のことと御慶び申しあげます。
さて、掲題の件につき「原子力発電所についての共同研究に関する契約」および貴社の原子力発電所の計画に対するその後の弊社の協力として、貴社に提出した資料に含まれる商業機密の取扱いに関する昭和五〇年六月五日締結の覚書、ならびに「濃縮技術の開発に関する技術協力協定書」第一〇条の取扱いについて、昭和五〇年六月五日締結の覚書に基づき貴社へ提出致しております情報および今後貴社へ提出致します情報に対する商業機密の指定を別紙の通り御通知致しますのでよろしく御願い申しあげます。
敬具
別紙商業機密として指定する情報について
東京芝浦電気株式会社
機密情報とは弊社の無体財産権に属するものであり、商業価値があり工業所有権に属さないため、その情報が権利として認められず、かつ公知上の事実でない技術情報あるいは、いわゆる弊社のプライバシーに属する情報であり第三者への開示により商業価値が失われ、あるいは弊社に対し不利益をもたらすおそれのあるものをいう。
機密情報とは具体的には次のものを指す。
1 弊社の技術開発、研究開発の内容および成果で弊社の財産に属する情報
2 海外からの導入技術で技術導入契約上、秘密保持の義務のある技術情報
3 特定の社外者との共同研究契約に基づく共同研究の内容および成果で秘密保持の義務のある技術情報
4 特許出願予定の技術情報
5 価格、生産能力、研究開発計画など弊社のプライバシーに属する情報
6 その第三者への開示が競争会社を有利とし、あるいは弊社に不利益をもたらすおそれのある情報
7 弊社の情報ではないが顧客、下請業者等との契約または協定によって秘密として取扱わねばならない情報
以上に基づき貴社と弊社との間で締結している「原子力発電所についての共同研究に関する契約」、ならびに貴社の原子力発電所の計画に対するその後の弊社の協力として、また「濃縮技術の開発に関する技術協力協定書」に基づき貴社に今迄に提出した資料および今後提出する資料に対する商業機密情報の指定は別途御提出致しますが、許認可に関し貴社の官庁への提出、開示につきましては資料毎ケースバイケースにて処理させて頂きたく御願い申しあげます。
なお、女川原子力発電所原子炉設置許可申請およびその後の変更許可申請に際して、関係官庁へ提示した資料における商業機密は添付の通りであります。
別添三の一
平成五年四月一九日
株式会社東芝
エネルギー事業本部
原子力事業部長 伊藤睦 様
東北電力株式会社
理事原子力部長松本保男
女川原子力発電所に係る企業機密の確認について(依頼)
拝啓 貴社におかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
さて、当社女川原子力発電所に係る企業機密に関して、当社と御社との間には、御社の「同意なしには第三者に漏洩または開示できない」とする昭和五〇年六月五日付覚書が締結されており、またその覚書に基づき昭和五〇年六月一二日付文書(商業機密として指定する情報について)が定められております。
つきましては、女川原子力発電所一号機及び二号機の工事計画認可申請書、工事計画変更認可申請書、工事計画軽微変更届出書及び特殊設計施設認可申請書並びに各添付資料のうち、各格納容器内部の構造、材質、寸法、取付方法及び強度計算について記載した部分に関する企業機密について、別紙のとおりご確認いただきたくお願い申し上げます。
別紙
(1) 昭和五〇年六月一二日付文書(商業機密として指定する情報について)においては、商業機密に属するものとして、
1 東芝の技術開発、研究開発の内容および成果で東芝の財産に属する情報、
2 海外からの導入技術で技術導入契約上、秘密保持の義務のある技術情報、
3 特定の社外者との共同研究契約に基づく共同研究の内容および成果で秘密保持の義務のある技術情報、
4 特許出願予定の技術情報、
5 価格、生産能力、研究開発計画など東芝のプライバシーに属する情報、
6 その第三者への開示が競争会社を有利とし、あるいは東芝に不利益をもたらすおそれのある情報
7 東芝の情報ではないが顧客、下請業者等との契約または協定によって秘密として取扱わねばならない情報
が指定されております。
(2) 御社によれば、電気事業法四一条に基づき当社が通商産業大臣に提出した女川原子力発電所一号機及び二号機工事計画認可申請書、工事計画変更認可申請書、工事計画軽微変更届出書及び特殊設計施設認可申請書並びに各添付資料のうち、各格納容器内部の構造、材質、寸法、取付方法及び強度計算について記載した部分には、下記事項が含まれており、それらが前記(1)1ないし7に該当するおそれがある(例えば、給水ノズル部については下記のとおりである)との見解が示されておりますが、この点につき書面にて確認させていただきたくお願いいたします。
①設計根拠、経験値、特殊材料の選定、特殊な製作手順に関する部分
②原子炉圧力容器等の強度及び応力評価に関して独自に研究開発した解析コードに関する部分
③開発成果、実験式に関する部分
④ゼネラル・エレクトリック社(GE社)等との技術提携に基づき未公開とされている事項に関する部分
⑤協力会社指定の営業秘密に関する部分
等
より具体的な例として、給水ノズル部(原子炉圧力容器と配管との接合部分…一号機では、第二回申請の「Ⅲ説明書および計算書」の中の「3原子炉圧力容器強度計算書」の「3―9給水ノズル(N―4)の応力計算書」に記載、二号機では、第五回申請の「Ⅳ―3強度計算書」の中の「Ⅳ―3―1原子炉本体の強度計算書」の「Ⅳ―3―1―1原子炉圧力容器の強度計算書」の「Ⅳ―3―1―1―11給水ノズル(N4)応力計算書」に記載)をあげれば、
a その構造、すなわちノズル部の形状は、前記(1)1、3、6、7に該当するものであり、
b その寸法、すなわち最小板厚は、前記(1)5、6、7に該当するものであり、
c その強度計算、すなわちノズル部の応力評価のために運転条件(温度、圧力、流量等)を変動させて得られた対応値は、前記(1)1、2、6、7に該当するものである。
別添三の二
(電子力)発九三号一五号
平成五年四月二二日
東北電力株式会社
理事原子力部長松本保男殿
株式会社 東芝
原子力事業部長 伊藤睦
女川原子力発電所に係わる企業機密の確認について(御回答)
拝啓 貴社益々ご清栄の段、お慶び申し上げます。
平素は格別の御高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、平成五年四月一九日付貴書簡にてお問い合わせいただきました、女川原子力発電所に係わる企業機密の確認につきましては、同書簡記載のとおり企業機密に該当いたしますので、開示を差し控えていただきたくお願い申し上げます。